[架空]四角い海

港のそばの埋め立て地。直角に海を区切っている。
公園の冊越しに見る海は少し窮屈そうで、でも以前はそんな風には考えなかったな、とふと気付く。
堤防、テトラポッド、角張った海岸線、褐色がかった水の色。
私達にとって海とはそう云うもので、海に行こう、と云えばそれは決まってこの公園を指していた。
私達の海。でも今はもうここにあのひとはいなくて、私はひとりで海を見ている。
あのひとは海へ帰れたのだろうか。私もいつか帰れるのだろうか。
冊にもたれ、仰け反ってさかさまになった海を見る。涙が落ちる。コンクリイトに滲む。







これが海に帰るならいいのに。
みんな海に帰るならいいのに。
数人の子供が足下を駆けていく。振り向いてもう1度だけ海を眺めて、来た道を戻る。
もうここに来ることはない。なんとなく、そう思った。